黒川能は山形県鶴岡市黒川にある春日神社の「神事能」として氏子たちによって継承されてきました。現存している能のどの流儀にも属さず、独自の伝承を続け、演式、演目などに古式を残しているといわれています。
黒川にいつから能楽が入ってきたか、究明されていないそうですが、室町時代に織られた能装束が残っていることから、室町時代の末期から定着したのではないかと考えられているそうです。
黒川の子供たちは幼い頃から狂言や能に触れて育ちます。水焔の能でも櫛引東小学校の児童による演目がありました。子供たちにも黒川能の精神が脈々と受け継がれているのを肌で感じました。
500年以上にわたり、黒川の人々の信仰心と能楽への愛着によって、幾多の困難をも乗り越え、今日まで受け継がれています。
能楽と聞くと、一般的には室内で行われるものを連想しますが、水焔の能は野外で実施されます。しかし、そもそも能楽は、発祥以来、野外で行われてきたもので、室内で演じられるようになったのは明治以降の傾向と言われているそうです。黒川能が野外で能楽を演じたのは櫛引町誕生30周年の記念事業の一環として昭和59年に行われたこの「水焔の能」が初めてなんだそうです。黒川能の多くが神への奉仕と奉納という形で社殿等で演じられてきました。一方で一般の人の目を遠ざけてしまったという課題があったそうです。水焔の能は誰でも黒川能を見ることができる、年に数回の貴重な機会です。
さわやかな夜風を感じながら野外でみる能楽は心地よく、また、時空を超えてタイムスリップしているような不思議な感覚でとても面白かったです。2月に王祇会館で黒川能に関するお話を聞いてから、ずっと水焔の能を楽しみにしていましたが、今回のイベントを機に、私たちも一層、黒川能の虜になってしまいました。今後も演能を見れる機会があれば、見に行きたいと思います。